「いいぜ?乗り掛かった船だ。アンタの気が済むまで、とことん付き合ってやるよ。お望みとあらば、行比べでも何でも応じてやるが?」

「ふふ…相変わらずの自信家だね、君は。いっそ小気味好いよ、一慶くん。」

「アンタもな。お袋さんが随分前に亡くなっていたと知りながら、何喰わぬ顔で俺達を此処へ連れて来た。大した役者だよ。狐だけに、化けるのが巧いじゃないか。」

「……。」

「千里さんが亡くなったのは、アンタの所為(セイ)か?アンタが彼女を殺したのか??」

 真織は、答えなかった。
口を一文字に引き結んで、強い拒絶の表情になる。

「また黙秘…か。」

 呆れ顔で嘆息すると、一慶は気持ちを切換る様に話を続けた。

「解った、黙秘権は認めてやるよ。代わりに俺が、アンタの目論見を当ててやる。薙を此処まで誘い出したのは、紫に会わせる為だけじゃない。弟もろとも、薙を殺さない程度に痛めつけ、《破戒僧》として、俺達に捕えられるつもりだったんだ。違うか、真織さん?」

「───。」

「六星の首座を害した者は、仏法の敵──闡醍(センダイ)として、処分される。喩(タト)えそれが未遂に終わったとしても、罪の重さは同じだ。闡醍が行き着く先は《無間地獄》と決まっている。アンタは、首座殺しの未遂犯となって、自ら地獄に堕ちる道を選ぼうとした。…そうなんだろう?」

 やはり、真織は答えなかった。
硬く拳を握り締め、唇を噛んでいる。
それが…彼の『答え』だった。