「──話は出来た?」
坂井祐介の静かな声がして、ボクは、ゆるゆると現実に引き戻された。
「あれ、ボク…?」
呟いた途端。目の端から、涙の最後の一粒が溢れる。慌てて頬を拭ってから、ボクは祐介に向き直った。
「…父さ………いや、親父は?」
「あぁ。たった今、逝ったよ。」
「そう──」
何やら、急に力が抜けてしまう。
親父の骨を見ても、もう何の感慨も湧いて来ない。
あれはもう、只の抜け殻…。今ならボクも、そうと解る。
ふと、親父の言葉を思い出した。
「…『こんなモノ』って。」
「ん?」
「こんなモノに促われるなって…そう言ったんだ、親父。」
「その通りだ。キミの父親は正しい。」
抑揚のない声で、彼が言う。
「人は死んだら、消滅する。骨も毛髪も肉も無くなり、最後は土に還るんだ。肉体は刹那の器──この世に在る為に必要な、魂魄の容器(ウツワ)に過ぎない。奉ずべきは器じゃなくて、中身だ。魂が宿る、人の心だよ。それは、こんな処には無い。」
「うん。」
そうかも知れない。
今なら、それが理解出来る。
「死者には、死者の在るべき『座』というものがある。魂が還る安住の場所だ。それが自然の摂理なんだよ。死して尚、この世に滞まる事は、苦痛でしかないんだ。」
「親父は、苦しんでいたんだね…ボクの所為で。」
「だが、もう終わった。」
ボクはコクリと頷いた。
「術に囚われたキミを解放する為に、僕等は遺骨の回収を任された。命じたのは、孝之さん…キミの叔父さんだよ。全ては、キミを思っての事だった。説明が足りなくて混乱させたね。済まなかった。」
殊勝に睫毛を伏せる彼に、ボクは、ボンヤリ相槌を打った。
そうか…
それで、苺と一慶が───