世界が暗転して、間も無く──。
俗に言う『お迎え』とやらが、やって来た。
天国は思いの外、近場にあるらしい。

…それとも。死者には、時間の経過など関係無いのだろうか?

『ちょっと、あなた大丈夫?』

 混沌とする意識の中で聞く、天使の囁きは、アニメ声。些(イササ)か俗っぽいと言えなくもないが、これも、日本のサブカルチャーに対応したサービスなのだろう。

 知る由もなかった死後の世界──。
天国の意外な真実に、つくづく感心していると、再びあの特徴的な声が呼び掛けてきた。

『大丈夫かって訊いてんのよ?ねぇちょっと、聞こえないの?』

 ──天使は、日本語が堪能だった。
やはり神の使いともなれば、それなりの語学力を備えているのだろう。ボクが返事をしないので、少し苛立っている様だ。

無視をしているつもりは無いが、何しろ身体が言う事を聞かない。天使なら、寧ろ、此方の事情を察して欲しいとさえ思う。

 ボクは死んだのだ。声など出せる筈が無い。このまま安らかに、引導を渡してはくれまいか?

十九歳という若さで生涯を終えるのは、本意じゃないが…これも、天命というものだろう。

無宗教ながら、心の中で十字を切る。