月、月、月──。

欠ける事なき、全(マッタ)き満月。

あぁ…
心の真ん中に、白く輝く球体が見える。
それが徐々に、大きく強く輝いて、自分の中が、白い月でいっぱいになる。

 頭はキンと冴えて、全身が透明になった気がした。

「…やるじゃないか。あとは陀羅尼(ダラニ)を唱えるだけだ。」

一慶が、耳元で囁いた。

「俺の唱える陀羅尼(ダラニ)を、そっくりそのまま繰り返せ。」

 静かに頷くと、ボクの合掌を押し包む様に、一慶の大きな手が重なった。

「ノウマク、サンマンダ…」
「…ノウマク…サンマンダ…」

 そうして、何度繰り返し唱えた事だろう。
気が付けば、ボクは自分一人で長い長い陀羅尼を唱えていた。

「ノウマク、サンマンダ、バザラダン、センダ、マカロシャダ、ソワタヤ、ウン、タラタ、カン、マン──。」

 …詠うように、囁くように。
唱えれば唱える程、祈れば祈る程。
脳内に濃密な『月』のイメージが湧いて来る。

「ノウマク、サンマンダ、バザラダン、センダ、マカロシャダ、ソワタヤ、ウン、タラタ、カン、マン…。」

 何度目かに唱えた陀羅尼が、唐突にボクの《力》を開放した。

 カ──ッ!と。
体中から光が溢れ出す。
魂が破裂して、一気に中身が噴き出した様な…この開放感。

キィキィと煩く鳴くのは、管狐達だ。
ボクの霊光を畏(オソ)れて、一斉に姿を消す。