背後からボクを囲い込むように、一慶の両腕が回された。

丁度、後ろから抱き締められる様な形になる。背中に触れた体温が、やけに生々しく感じた。居心地の悪さに身動(ミジロ)ぎすると──

「集中しろ、馬鹿!」
「痛っ。」

 こめかみを、ピンと弾かれる。

手厳しい師匠に一から手順を教わりながら、ボクは、徐々に降伏の修法に入った。

 たどたどしく結んだのは、蓮華の蕾の様な美しい《合掌印》である。体術の構えとして組む印契(インゲイ)とは、感覚がまるで違う。

両手を併せた瞬間、自分の中の深い場所に、ポゥッと光が灯った気がした。

「薙、心の中に『月』を思い浮かべろ。真っ白な、欠ける事なき『満月』だ。そうして、月と自分が一体化していく姿を強くイメージする。出来るか?」

ボクは頷いた。
多分、出来ると思う。

 …片や。蒼摩は《九字》を切って、一匹また一匹と管狐を捩じ伏せていた。

気迫の隠る横顔には、玉の汗が浮かんでいる。

(大丈夫かな、蒼摩…?)

 だが、杞憂は無用だった。
彼の行力は、一慶に勝るとも劣らないもので、瞬く間に、全ての管狐を消し去ってしまう。

 ところが、敵も去るもので…。
真織は、間髪措かずに笛を吹き、更に五体の管狐を呼び寄せてしまった。

一匹祓えば一匹現われ…の繰り返しである。
いつまでもキリが無い。