「…苦しいよ、一慶くん…そうグイグイ、絞めないでくれないか。そんなに、私を…大罪人にしたいの、かい?」

 真織が皮肉に笑った途端、一慶の指が《刀印》を結んでスイと宙を薙ぎ払った。

「ぅ──っぐ!」

 首を押さえてもがき苦しむ真織。
体が大きく前に傾ぎ、そのままガクンと膝を着く。

カチャン!

 トレードマークの眼鏡が落ちて、片側のレンズが割れた。

「それが茶番だって云うんだよ。いつまで善人の皮を被るつもりだ?」

 大きな嘆息と共に、一慶は密印を解いた。真織の《霊縛》が外れ、空間がフワリと弛む。

「俺だって、仲間相手に手荒な真似はしたくない。こういう役回りは性に合わないが…仲間に嘘を吐かれるのは、もっと不愉快だ。特にそれが、行者として手本にしていた先輩相手だったりするとな、妙に癪に障るんだよ。」

 言い終わるなり。一慶の美貌から、表情が消えた。

「狐霊遣いが呪殺を行っているという証拠は、たんまり上がっているんだ。あとは、アンタが認めるだけだよ。」

 ──すると。
真織の頬が苦悶する様に歪んだ。

「私だよ。闇行者となって、死刑囚の呪殺を行っていたのは私だ。」