…途端に。一慶は大きな溜め息を吐く。

「近頃、妙な噂を耳にするんでね。調べていたんだよ。」

「へぇ…どんな噂だね?」

 長い前髪を掻き上げると、端正な一慶の顔が不意に険しくなった。

「六星一座の中に呪殺(ジュサツ)を行う闇行者がいるらしい…ってね。」

「それで藪を突ついたのかい?」

「まぁね。藪から出て来たのは、蛇じゃなくて狐だったよ。」

 刹那。一慶は、素早く印を切った。

「ノウマクサンマンダ、バサラダンカン!」

バチ──ッ!バチバチッ!!

 音にならない音が聞こえた。
真織の体が、その場にピタリと釘付けになる。

「──《霊縛》ですか。やりますね、流石は一慶くん。降伏系行者の猛者(モサ)と云われる、だけ…ある…。」

「そりゃどーも。お誉めに預かり光栄だね。」

 二人の緊迫した会話が続く。
気が付くと、ボクの傍らに蒼摩が立って居た。

「蒼摩─…。」
「大丈夫、貴女は僕が守ります。」
「どういう事?何が起きているの??」

「──真織さんが、《闇行者》かも知れないんです。」

「闇行者?」

「呪殺(ジュサツ)──つまり、行力を遣(ツカ)って殺人を行う、堕落した行者の事ですよ。」

「呪殺?真織が!?」

 ボクの五体に戦慄が走った。
一慶が言う。

「闇行者についての不穏な噂は、随分以前からあったんだ。それで、伸さんの生前から《金の星》と《水の星》が、極秘に内部調査を推めていたのさ。」

 内部調査──。
つまり、仲間を疑うという事か?
そんな現実は認めたくない…だけど。

「まさか、千里さんの死も?」

「そうあって欲しくねぇから、本人に訊いてんじゃねぇか!」

 乱暴に言い放つや、一慶は密印を組み変えた。

「どうなんだ!? 答えろ、真織さん!」