「よせ、蒼摩。」

 激昂する水の当主を、一慶が止める。
蒼摩は、握った拳を小刻みに震わせながら、貝殻色の唇をきつく噛み絞めていた。

 …こんな彼は、初めて見る。
感情表現に乏しい蒼摩が──今、本気で怒っている。

 そんな彼を背に庇う様にして、一慶は、ずいと前に出た。真織と同じ目線で、厳格に対峙する。

「…茶番は終わりにしよう、真織さん。俺達は、アンタの本心が知りたいんだ。いつまでも、惚けは無しだぜ。」

「本心ですか…例えば、どんな??」
「アンタ、千里さんをどう思っていた?」

「…ほぅ…なかなか面白い質問だね。それを訊いてどうするんだい?」

 真織の目が、冷たく光った。

「私が彼女をどう思っていようが関係無い。母は死んだ。その事実は変わらないよ。」

 冷静さを失わない物言いに、一慶は半眼閉じて顎を聳(ソビ)やかす。

「それなら、もっと単刀直入に訊こうか。アンタ…最初から、千里さんを死なせるつもりだったんじゃないのか?」

「どういう意味かな、それは?」

「言葉の通りだよ。アンタに殺意があったか否か。…俺達が知りたいのは、その一点だけだ。」

「私が、母に殺意を抱いていたと?」

「そうだ。アンタ最初から、母親を殺すつもりだったんじゃないのか?」

 核心を突く一慶の言葉に──真織は、狂った様な哄笑を浴びせて言った。

「だとしたら──?」

禍々しく歪む口元。
凍る様な眼差しが、ボクを射抜く。

「母を憎んでいた…とでも言えば、君等は満足するのかい?殺意を肯定した途端、私を捕らえて、座敷牢に打ち込むつもりか!?全く…滑稽だな、行者って奴は。怨みや憎しみだけで行動する様な、そんな浅はかな人間ではないよ、私は。」

 酷薄な笑みを刻むと──。

真織の口から、ボクの期待を裏切る言葉が容赦無く発せられた。

「君等の推測通りだ。私は、母を殺すつもりだった。この、打ち捨てられた離れでね。」