「ぅ…ん…。」

 ほんの僅か身動ぎすると、紫はまた気持ち好さそうに寝入ってしまった。

ボクは、蒼摩に手伝って貰って、ゆるゆると上体を起こす。

紫を起こさない様に、彼の頭をそっと膝の上に乗せると、一慶は細い腰に手を当て、呆れ顔で嘆息した。

「しかしまぁ気持ち良さそうに。膝枕とは良い気なもんだな。まぁ、紫だけでも無事で良かったよ。」

「僕は向坂家に連絡します。迎えに来て貰いましょう。千里さんの亡骸も一緒に。」

「そうだね。頼むよ、蒼摩。」

 ──すると。ボクの声に反応する様に、紫の手がキュッと拳を握る。

可愛い…。
生まれたての赤ん坊みたいだ。
紫の前髪を手櫛で鋤きながら、ボクは誰にともなく呟いた。

「結局、千里さんが離れに引き篭った理由は、解らず仕舞いだったね…。」

 紫を当主にしたくないという、彼女の『母』としての気持ちは解る。きっと、ボクの親父と同じ想いがあったんだろう──だが。

あの《黄泉比良坂》を越えてまで、こんな場所に、紫を匿う理由が解らない…。