もうずっと以前から、ボクは親父に、そう訊ねたかった──だけど。それはボクにとって、鬼門ともアキレス腱とも云える、最もヤワな場所で…だからこそ、恐ろしくて訊けなかったのだ。

 半月前に、突然此の世を去った父親を、ボクは恨んでいる。親父は、あまりにも多くの謎を遺して、居なくなってしまった。

 甲本家に纏わる特別な事情も。
何故ボクが生まれて来たのかも。
大切な事は、何一つ知らされていない。
それは多分──ボクが、『親父が望む様な子』ではなかったからだ。

 ボクには、親父の様な優れた才能も器量もない。きっと、ガッカリしていた筈だ。だから親父は、何も告げずに逝ってしまった。こんなに凄い事が出来る親族が沢山いるのに…それすら教えてくれなかった。

 ──ボクは。
自分が一体、何の為に総本家に呼ばれたのかも解らない。だからこそ、解らないまま、こんな処まで来てしまった。本当の事が知りたくて…。

「訊きたい事はそれだけ?」

 訝る祐介に、ボクは黙って頷いた。

「もし、もう一度親父に会えるなら…絶対に訊いてみたいと思っていた。」

知りたい。
親父が、ボクをどう思っていたか──

「他には?」
「……」

首を横に振ると、小さな溜め息が聞こえて来る。彼は少し呆れた様な口振りで、訊ねた。

「何故そんな事を訊くの?」

「ボクは…親父にとって、期待外れの子供だったんじゃないかと…ずっとそう思っていた。だから、もしそうなら謝りたい。」

「そう…」

 それきり、祐介は口を閉ざしてしまった。
静かに呼吸を整えると、再び深い集中に入る。

 刹那。指先の光が、一層輝きを増した。