「紫、何処だ!」

 それまで沈黙を守っていた真織が、突如大きな声で叫んだ。だけど返事は無い。

「千里さんは?」

「解りません。私も暫く、此の家には来なかったので。」

 ボクの質問に早口で答えながら、真織は次々と部屋の襖戸を開けていった。

 ──タン!ガタン!

家のアチコチで、襖や戸が開く音がする。
蒼摩は棟続きの納屋を、一慶は東側の客間を──各々、捜索していた。ボクも負けじと、探し回る。

 …それほど広くもない邸内。
程無く、尋ね人の一人が見付かった。

「おい、こっちだ。」

東側の和室の前で、一慶が手招きする。

表情が固い。
嫌な予感がする。

 ボクと真織が駆け付けると、和室の中には、既に蒼摩が居て、畳に片膝を着き両手を合わせていた。

「…蒼摩…?」

 そっと声を掛けると、蒼摩は静かに顔を上げてボクを見た。

「…遅かったみたいです。」

そう言って、畳の上に目線を落とす。

 其処には、半ば白骨化した遺体が横倒わっていた。乱れた長い髪の中に、ドス黒く縮んだ小さな顔が埋まっている。

豪華な赤い西陣織りの振袖を着た、『女性』と思われる人物が、布団の上に整然と寝かされていた。

枯枝の様な両手は、胸の上できちんと組まれてある。

「これ…は…?」
「母です。」

感情の篭らない声で呟く真織。

「左の薬指に見覚えのある指輪が…。」

 見れば確かに。
萎びた左の薬指に、血赤の珊瑚が填め込まれたプラチナの指輪が、そこだけ不思議な程生き生きと、美しい輝きを放っていた。

 …綺麗に調えられた遺体。
こんなに丁寧に、死出の旅支度を調えたのは──

「…紫。紫は?」

 ハタと気付いて、ボクは駆け出した。

探さなくては。
一刻も早く探さなくては──紫を!