漸く辿り着いた離れは、見た目以上に老朽化が進んでいた。外廻りからも、破れて桟(サン)だけになった障子戸が、はっきりと確認出来る。

割れたガラス。
穴の空いた雨戸。

壊れ掛けていた裏木戸は、一慶が馬鹿力を振るったお陰で、完全に倒壊してしまった。

「俺は、扉を開けようとしただけだ。」
「でも壊れましたよね、結果として。」
「俺が破壊したとでも?」
「そうです。他に誰がいるんですか。」

 一慶と蒼摩の掛け合い漫才は、こんな時でも健在だった。この緊張感の無さ。たった今、死者の世界を見て来たとは思えない。

 それからボク等は、生い茂る雑草を掻き分ける様にして、玄関に辿り着いた。引戸に手を掛け、滑らせようとしたが…

 ガタガタ、ガタ。ガタガタ!

 扉は、恐ろしく建て付けが悪かった。
建物に入る前に、また暫し苦戦する羽目になる。

それにしても、妙だ。
鍵は開いている筈なのに、引戸はビクとも動かない。何度か力任せに引いている内に…

ガタン!

「あれ?」

扉が溝から外れてしまった…。

「あ~あ、壊してやがる。薙の馬鹿力。」

 何だと──?
一慶だけには言われたくない!

引っ掻いてやろうかと身構えた途端、蒼摩がボクの袖を引いた。

「見て下さい、首座さま。」

 指差す方向に綿埃だらけの廊下がある。
その壁には…

「血痕…?」
「みたいですね。」

 くすんで変色してはいたが、明らかにそうと判る大量の血液の跡が残っていた。

「古いものですが、かなりの出血です。…生きていてくれると良いのですが。」

蒼摩の冷静な分析は、ボクを俄かに不安にさせた。

「とにかく探すしかないだろう?二手に分かれるか。」

一慶に背を叩かれて、何とか気を取り直す。
喩え『どんな姿』でも、今は二人を探すしかない。