門を抜けると、其処は現実世界だった。

山の中。見渡す限りの赤松林。
頭上高く鳶が鳴いて、空に大きな円を描いている。

目の前には、獣道の様な頼りない一本道が細く長く延びていた。他には何も無い。さっきまでの凄惨な風景が嘘の様だった。

「あれが、離れです。」

真織の指差す先に、黄泉比良坂で目にした平屋の建物があった。だけど…。

「これを何とかしないと通れませんね。」

 足元を見て、蒼摩がボソリと呟いた。

苔むした幾つもの倒木が、細い山道を塞いでいて、足の踏み場も無い。建物は目と鼻の先にあるのに、其処へ繋がる一本道は完全に封鎖されている。

 永い間、下界との行き来が無かった事を、あからさまに物語る光景だ。

「酷いな、予想以上だ。或る意味、黄泉比良坂より凄惨な光景だな。」

 ぶつぶつボヤキながらも、一慶は散乱する倒木を片付け始めた。真織と蒼摩も、各々に作業を始める。

ボクも手伝おうとしたけれど…

「あー。危ないから、お前は此方に来んな。その辺で、適当に休んでろ。」

 …と言う具合に。
あっさり、一慶に止められてしまった。

あれでも一応、ボクを女性扱いしたつもりなのだろうか?却(カエ)って気味が悪い。

 実際。ボクが手伝わなくても、ものの数分と経たぬ間に道は開通してしまった。

鬱蒼と生い茂る、草木の海。
その奥に、古びた向坂家の離れ家が佇んでいる。