場も弁(ワキマ)えず感心していると、今度は一慶が歩み寄って来て、背後に立った。シャランと鈴の様な音がして、ボクの首にペンダントが掛けられる。

「一慶…これ何?」
「御守りだ、着けてろ。」
「御守り?」

 中央に、蓮の花──。
その上下左右に小さな三ツ又の鈎爪が付いた、不思議な型のペンダント・トップが、ボクの胸元で金色に輝いている。

「これは《羯磨(カツマ)》と言うんだ。お前にやるよ。」

 羯磨──。

この形に一体どんな意味があるのか、ボクは知らない。だけど、その金属的な重みは、少しだけ不安を取り除いてくれた。

 真織は気を害した様に、きつく双眸を眇めたが…直ぐに元の無悲な表情に戻り、冷たく言い放った。

「じゃあ、行きましょうか。」

 ──そう言うなり、ボクの肩を抱き寄せる。

「いいですか、首座さま?私から離れてはいけませんよ。貴女は目立ち過ぎるんだ…良くも悪くもね。」

 ピタリと体を付けると、真織はボクの腕を自分の腰に巻き付けた。

「腕は、こう。こうして密着する事で、貴女が私の一部となる様に、目眩ましを掛けます。亡者共に決して見付からない術をね。」

 身長差がある所為で、ボクの体は、真織の脇にスッポリと押し包まれる形になった。

何やらこのまま、闇の中に拐(サラ)われてしまいそうで怖い。

 この様子を、端で眺めていた一慶は、不愉快そうにピクリと片頬を引き攣らせた。

 門を潜り抜ける一歩手前で、真織は、ふと後ろを振り向く。

「お父さん、貴方はどうします?着いて来るのか、来ないのか?」

「…私は残って、護摩を焚く。」

 険しい顔で答える父に、真織は『護摩ね』と呟いた。

「…今更、遅い。」

誰にも聞こえない声で、小さく嘲ける。

 そうして。真織の言うがまま、ボク等は門の向こうに一歩を踏み出した。