密かなボクの決意を察してくれたのか…蒼摩が、然り気無く肩を並べる。

安心させる様に小さく頷いて見せると、《水の星》の少年は、澄んだ眼差しで、《土の星》の当主を見据えた。

「玲一おじさん。離れに通じる道は、この坂の他にもありますか?」

「…あぁ。かなり遠回りになるが。林道から入るルートもある。」

「では何故、千里さんは、わざわざこの坂を登ったんでしょう?」

 その問いに、玲一は哀しげな笑みを口元に履いて、『解らない』…と、かぶりを振った。

「この坂には、秘中の秘とされる封印が施されていて、行者でない者には開けられない仕組みになっている。当主の直系にのみ口伝される《密印》と《密咒》で、固く封鎖されているんだ。それを、私達は《鍵》と呼んでいるのだが…何故か素人の千里が、あっさりと門を破ってしまったんだよ。」

 それを訊いて、蒼摩は眉間を皺立てた。

黙したまま、深い思索に沈み込んでしまう。

ボクは、玲一を見上げて尋ねた。

「千里さんは、この門の向こうに何があるのか知っていたの?」

「勿論です。普段から、この門には近付かない様に言い聞かせておりました。なのに何故…彼女にそんな事が出来たのか、私には解りません。唯一読み取れるのは…千里は、生きて再び私の元に帰る意志が無いという事だけです。」

「そんな…!何か連れ戻す方法は?」

 玲一は諦めた様に微笑んで、ゆっくりと首を横に振った。

「行者以外の者が、生きたまま《黄泉比良坂》を登る事は、即ち、死を意味しています。生きて戻る事は出来ません。死者が、二度と蘇える事が無い様に。」

 そう答える玲一は、暗い絶望に打ちひしがれて…ぐっと老け込んで見えた。