「《土の星》の行者は、異能を使う者が多い。反面、その強い魔性に取り込まれて、精神を病む者もあるんだよ。」

 然り気無く説明を加える一慶に、傍らの蒼摩が、ポツリと補足する。

「我々は《闇行者》と呼んでいます。」

「やみぎょうじゃ?」

「行者も人の子。中には、自らの力に慢して、使い途を誤る者もあるんです。」

「絶対に在ってはならない事だがな。」

 苦々し気に吐き棄てる一慶に、コクリと相槌を打って…蒼摩は続けた。

「精神面で脆く繊細な《白児》は、特にも魔性に取り憑かれ易いと言います。多くの場合、闇行者として処分されて来ました。中でも一番手っ取り早い方法が、座敷牢に幽閉する事だったのです。」

 処分、幽閉、座敷牢──。
何れも、不穏極まりない言葉ばかりだ。

 六星一座の『闇の歴史』…。
以前、苺が語ってくれた伝承が、ここに来て俄かに現実味を帯びる。

出来れば、耳を覆って聞かなかった事にしてしまいたかった──なのに。蒼摩は尚も、淡々と語る。

「…六星行者は、結縁灌頂(ケチエンカンジョウ)という儀式を行って、仏と縁を結びます。それだけに、仏意に叛(ソム)く行いをした者には、厳しい罰が課せられるのです。闇に堕ちた行者は、頂いた力の全てを、仏に還さなくてはなりません。何らかの理由でそれが出来ない場合…死ぬまで幽閉されるのが常でした。」

「死ぬまで?」

「そう、死ぬまでです。姫宮家にも、嘗てはそういう風習があった様です。」

 それを承けて、一慶が徐ろに口を開いた。

「白児(ハク)や闇行者に対する一座の扱いは、何処も酷いものだった。残酷な仕打ちだと思うだろうが…昔は、各家で当然の様に行われていたんだ。何も、向坂一門に限った事じゃない。」

「……。」

 語られる真実に、ボクは暫し絶句する。

なんて忌まわしい過去だろう…。
我知らず肌が粟立つ。

 無意識に自身の体を掻き抱くと、一慶が心配そうに、ボクの顔を覗き込んで来た。

「顔色が悪いな。やはり止めておくか?」
「ううん、平気…行くよ。」

 そうは言ったものの自信は無かった。
平気じゃ…ないかも知れない。こんな話を聞かされて、恐くならない筈がない。

だけど──だからこそ。
ボクは直ぐにでも、紫に会わねばならないと思った。