黄泉比良坂──冥府へ続く、一本道。
六年前に『離れ』に向かったという千里と紫も、やはり其処《そこ》を通ったのだろうか??

何故…何の為に?

 次々と泉の様に湧く疑問を抱えつつ──ボク等は、『その場所』へ向かった。

案内されて辿り着いたのは、庫裏(クリ)の北東にある裏庭である。『庭』とは名ばかりの、暗くて気味の悪い場所だった。

古い石燈籠が二つ並んでいる他は、特に見るものも無い。

 枯れた人工池。
壊れて使えなくなった、古井戸。
敷地を囲う鉄格子の向こうには、不気味な雑木林が見えている。

林の中には、苔むした石畳の坂道があり、先が見えない程奥へと続いていた。

 これが…《黄泉比良坂》だろうか??
坂道の前には、生命の侵入を阻むかの様に、鉄扉の門が聳えている。

 まるで、監獄の様だ。
門扉には太い閂(カンヌキ)が挿し込まれ、錆びた錠前で厳重に封印してあった。

「この門の向こうが《根の国》…黄泉の国へと続く道です。この坂を、生きたまま行き来する事が出来るのは、扉の鍵を持つ私と真織…そして、次男の紫だけです。」

 《黄泉の番人》向坂玲一が、神妙な面持ちで言った。

やはり。
この門こそが《黄泉の国》への入口か。
扉一枚隔てた先は、無限に続く死者の世界だ。

 玲一は更に、こんな事を云って、ボクを慄(オノノ)かせた。

「この坂道を登り切った先に、件(クダン)の『離れ』があります。嘗(カツ)ては、白児(ハク)に産まれた憐れな嫡子を閉じ籠めたり、強い霊障に因って発狂した行者を幽閉する為の『座敷牢』として使われておりました。」

「座敷牢──!?」