不意に、玲一がボクを見て訊ねた。
「離れを…御覧になりますか?」
無論ボクは、『はい』と答える。
元より、その為に来たのだから。それに…
生い立ちを聞いて、ますます紫(ユカリ)本人会いたくなった。彼が今、何を思って母親の傍らに居るのか…その真意が知りたい。此処まで来て、紫に会わずに帰れる筈もない。
ボクの決意が変わらぬ事を知った玲一は、少し眉間の皺を濃くして云った。
「では…少しばかり、御注意願いたい事がございます。」
「はい。どうすれば?」
「母屋から離れまでの通路は、『特殊な空間』になっております。ですから、離れの建物の中に入るまで、決して後ろを振り返らないで頂きたいのです。」
決して後ろを振り返らない──。
何処かで訊いた事のある言葉だ。
何だったろう??
決して後ろを…振り返らない。
「特殊な空間って──もしや?」
ハタと気付いたボクの問いに、玲一は重々しく頷いて云った。
「はい。母屋から離れに続く空間こそが《黄泉の国》へ続く道──《黄泉比良坂》なのです。」
「離れを…御覧になりますか?」
無論ボクは、『はい』と答える。
元より、その為に来たのだから。それに…
生い立ちを聞いて、ますます紫(ユカリ)本人会いたくなった。彼が今、何を思って母親の傍らに居るのか…その真意が知りたい。此処まで来て、紫に会わずに帰れる筈もない。
ボクの決意が変わらぬ事を知った玲一は、少し眉間の皺を濃くして云った。
「では…少しばかり、御注意願いたい事がございます。」
「はい。どうすれば?」
「母屋から離れまでの通路は、『特殊な空間』になっております。ですから、離れの建物の中に入るまで、決して後ろを振り返らないで頂きたいのです。」
決して後ろを振り返らない──。
何処かで訊いた事のある言葉だ。
何だったろう??
決して後ろを…振り返らない。
「特殊な空間って──もしや?」
ハタと気付いたボクの問いに、玲一は重々しく頷いて云った。
「はい。母屋から離れに続く空間こそが《黄泉の国》へ続く道──《黄泉比良坂》なのです。」