「紫の母親は千里(チサト)と申します。元々は、私の『依頼者』でした。生まれながらの霊媒体質で…若い頃から、頻繁に起こる《霊障》に悩んでおりましてね。月に数度も浄霊に通っていたのです。」

 顔を会わせる内に、二人は惹かれ合う様になり…やがて結婚に到った。早くに妻を亡くした玲一にとって、千里は二人目の妻になる。

 先妻の織衣(オリエ)は、真織を産んで間も無く亡くなった。玲一も織衣も、二十一歳という若さの中での悲劇だった。

 ──その十年後。

玲一は千里と再婚し…更に、その一年後に弟の紫が誕生したのである。

「最初は、上手くいっておりました。真織も…血の繋がりが無いと知りながら、千里に良く懐いていた。親子関係は良好だったのです。関係が崩れ始めたのは、真織が十三歳になった年からでした。」

 ──その頃。真織は俄かに《狐霊遣い》の力に目覚め、本格的な仏道修行に入った。

一般で云う處(トコ)ろの成人式に当たる《元服の儀》を終え、僧侶となる為の儀式──得度受戒(トクドジュカイ)を承(ウ)けて、正式に《六星行者》となったのである。