一慶は頬をヒクつかせたまま、奇妙に片側の口角を吊り上げて訊ねた。

「玲さん──これ何?」
「マグカップだ。」
「マグ…カッ…」

「お前。つい先日、誕生日だったろう?だから、今年も造ってみたんだよ。いい色が出ているだろう?? 俺の陶芸の腕も、近頃じゃプロ級だな。」

え───!?
それは一体、何のプロ??
どう贔屓目に見ても、深緑色した『釣り鐘』のレプリカとしか思えない!

 玲一は、すこぶる上機嫌だった。

ドン引きしているボク等を前に、自分の作品を繁々と眺めながら、留目の一言を放つ。

「うむ。近年稀に見る素晴らしい出来だ。お前の誕生を祝い、虚心担懐、真心込めて造った会心の作だぞ。遠慮なく使ってやってくれ、一慶。」

「…………。」

 会心の作を手に、凍り付く一慶。
「いらね──っ!」という、彼の心の叫びが聞こえた気がした。

 室内が、微妙な空気に充たされる。

苦しいこの局面で、どう本題を切り出すべきか悩んでいると…傍らの蒼摩が機転を利かせて、然り気無く話題を変えてくれた。

「玲一さん。紫さんは今どちらに?」
「紫は…『離れ』に居るよ。」

 途端に、玲一は秀眉を曇らせた。

「首座さまは…当家の事情を、何処までご存知なのでしょうか?」

「…お母さんが、紫くんを連れて、離れに引き籠っていると…真織から、そう訊いています。」

『その通りです』と力無く自嘲して、《土の星》の当主は冷めた茶を口に含んだ。