如何にも噂話が好きそうな、おばさんだ。
ボクに関するあれやこれやを、気持ち悪いほど誇張した表現で、得意気に吹聴して廻る様子が目に見える。

『新しい首座』についての過剰に片寄った情報が、其処ら中にばら蒔かれるのかと思うと…何やら激しく気が滅入った。

 ──座敷に通されて、程無く。
上手から、現当主・向坂玲一が現れた。

「いらっしゃいませ、首座さま。御待ちしておりましたよ。」

「こんにちは。お邪魔します。」

 審議会の席とは打って変わって…玲一は、ボクを心から歓迎してくれた。敵意も疑念も感じない。

首座に就くと、こうも扱いが変わるのか。
突然、掌を返された様で居心地が悪い。

「蒼摩くんに一慶も、此処に来るのは久し振りだろう?今日は良く来てくれたね。」

 歓待の言葉に、蒼摩は丁寧に頭を下げた。
片や、一慶はと云うと──

「別に、良くも来ねぇよ。出来れば一生足を踏み入れたくなかったんだがな。」

「ち…ちょっと、一慶!」

 あまりにも失礼な物言いに、ボクの方が慌ててしまう。だが、当の本人はケロッとしていて、全くお構い無しだ。玲一の頬が、ピクリと引き攣る。

 気まずい空気に、思わず身を縮めると…

「あははは!相変わらずだな、お前は!」