「いえ。僕は結構、有意義な時間を過ごしましたから。先生も…ある意味、有意義な時間を過ごしていると思いますので、お気遣いなく。」

 そう言って、ソファを一脚丸ごと占領している一慶に視線を投げる。

窓から射し込む日溜まりの中で、彼は、実に気持ち良さそうに爆睡していた。お休みの所ろ誠に気の毒だが、やはり起こすべきだろう。

 溜め息を吐きながら一歩踏み出すと、突然目がチカチカして、開けていられなくなった。

「…ん!」

眩しい。
視界がボヤけて、周囲が良く見えない。

 顔を背けて後退った途端、ボクはソファの角に躓いた。バランスを崩して倒れ掛けた處ろを、間一髪、誰かに支えられる。

「大丈夫ですか?」

 背後には、向坂真織が立っていた。
差し延べられた腕が、確りとボクを抱き止めている。

「だ…大丈夫。ありがとう。」

身を起こしてお礼を云うと、真織は心配そうに眉を曇らせた。

「まだ良く見えないでしょう?散瞳薬で瞳孔を拡げているので、暫くは眩しいと思います。視界がボヤけますから、足元には充分気を付けて下さいね?」

 そうだった…。

事前に説明を受けていたのに、すっかりそれを忘れていた。

「…ところで、首座さま。生憎、私は未だ少し仕事が残っているのです。お呼び立てしておきながら、誠に申し訳ないのですが…先に、私の実家へ向かって頂けないでしょうか?」