「お忙しい中、遠路お越し頂いて申し訳ありません。直ぐに検査を始めましょう。」

「忙しいのは真織の方だよ。ゴメンね、こんなに大勢の患者さんがいるのに、わざわざ時間を割いてくれて。」

 ボクが頭を下げると、真織は優しく双眸を細めて言った。

「ご心配には及びません。当院には優秀な医師が、もう一人居りますので。」

 …そう云うと。ボクを手招きして、二つある診察室の一つに案内する。中には、老人の目を丁寧に診ている妙齢の女医が座っていた。

「妻の叶(カナエ)です。彼女が居なければ、とてもこの病院は回りません。彼女こそが当院の要です。」

 すると、向坂叶が不意に顔を上げて、華やかに会釈をした。優しそうで暖かい雰囲気を持った女性だ。

こんな素敵な奥さんがいるのだから、真織はきっと大丈夫。喩え彼が《狐霊遣い》だとしても、その力に溺れてしまう事など或る筈が無い。

 ボクは、そう自分に言い聞かせた。