何か言おうとして──
ボクは、それきり二の句が継げなくなってしまった。
坂井医師が、袋の中から、徐ろに親父の骨を取り出したのだ。

 白く乾いた、小さな骨片…
嘗て親父の一部だったモノ──それを。
彼は、静かに机の上に置いた。
臼状の小さな白い欠片が、緑の袋の上にチョコンと乗せられる。

 …これは、故人の頚椎の一部だ。
だけどボクにはまるで、親父が胡座を掻いて、其処に座っている様に見えた。
坂井医師は、丁寧に恭(ウヤウヤ)しく、それを扱ってくれる。

 白い布切れを取り出すと、まるで宝石を捧げ持つかの様な慎重さで、表面に付着した糸屑や埃を丹念に払い落とした。

 そうして。最後に、そっと手を合わせる。
指と指とを交互に組ませた、見た事のない形の合掌だった。

 暫し祈り終えた後──
彼は、ゆっくりと眼鏡を外した。
端正な顔が露わになる。

 其処に居るのは、最早、内科医・坂井祐介ではなかった。癒者と呼ばれる、もうひとつの彼の姿…


「…始めるよ?」

祐介は、一度だけボクを振り見遣って微笑んだ。