運転席では、一慶が不機嫌極まりない顔で、ルームミラーを睨んでいる。

「今日はヤケに絡むな、蒼摩!?」
「はい。朝から気が立っています。」

「何処がだよ、鉄面皮が!」
「お褒めに預かり光栄です。」

 乾いた言葉の応酬が続く…。

ルームミラーに映る姫宮蒼摩は、極めて冷静だった。本人が言う程、苛立っている様には見えない。

 ふと気になって、ボクは彼に訊ねてみた。

「ねぇ。蒼摩って、いくつ?」

空気を変えるのには丁度良い話題だった。
蒼摩の仮面が、ふわりと緩む。

「僕の年齢ですか?十六歳です。」
「十六!? 高校生なの?!」

「はい。もう学校には行っておりませんけれど。」

「え?? どうして学校に行かないの?引き篭り!? 登校拒否?? もしや、その…イジメにあっているとか?」

 ボクの矢継ぎ早な質問に、蒼摩は面喰らった様に小首を傾げた。

「いえ、別にそういう事では…。来春、音大を受験するので、退学届けを出したんです。」

「退学届…って。大学受験するなら、尚更、退学は不味いんじゃない?よく、庸一郎さんが許してくれたね。」

「父には話しておりません。」
「えぇ!?話していないの??」

「はい、反対されるでしょうから。」
「そりゃ…反対するよ。」