ボクは只、そのマイペース振りに呆れているだけだ。そうとも知らず、一慶はボクに向かって傲慢に言い放つ。

「いいか、良く聞け。こいつに自分以外の人間を乗せるのは、お前が初めてだ。当主就任の祝いとして、今日は『特別に』助手席に乗せてやるから、有り難く思えよ?」

「あ、そう…そりゃまた、光栄の極み。」

「だろう?無事に戻ったら、この喜びを日記にでも付けておけ。あぁ、お前さ。乗り物酔いはする方か?酔っても良いが、絶対に吐くなよ。車内が汚れるからな。」

「いちいち失礼だな!! 汚さないよっ!」

 全く、もう…。
これだから、車フェチは厭なんだ。

 ──車に乗って、約40分後。

閑静な住宅街を過ぎ、通りを何度か右左折して、ボクらは、林の中に建つ古風な白い洋館の前に辿り着いた。

街の喧騒を遠く離れた其処は、まるで別世界である。

 屋敷の周りは白樺の林。
その向こうには、大きな湖が見えた。
エメラルドを煮溶かした様な湖水の碧に、紅葉し始めた木々が逆さまに映し出されている。

何て綺麗なんだろう…?
まるで油絵の中に入り込んだ様だ。

 誘われる様に邸内に入る。
聳え立つ薔薇の門を潜り抜けると、隅々まで手入れの行き届いた広大なイングリッシュ・ガーデンが拡がっていた。