そう言って。弾ける様に一慶は大笑した。
悔しい。こんな低レベルの冗談に引っ掛かるとは!

腹いせに、思い切り向こう脛を蹴飛ばしてやると…

「い──!」

 彼は、悲鳴を喉元に飲み込み踞った。
丸めたその背に「ざまぁみろ」と罵声を浴びせて笑ってやる。

一慶は、目尻に涙を浮かべて、憎らしげに怨み言を云った。

「この、じゃじゃ馬!お前は冗談が通じねぇのか!?笑うトコだろうが、ここは!」

「笑えないよ、そういう冗談は!」
「馬鹿だな…笑っとけよ。」
「え?」

「笑えない時ほど無理にでも笑え。緊張が解れる。心のストレッチだ。」

 心のストレッチか…成程。
言われてみれば、そうかも知れない。
気が付けば緊張が解れている。

「心がガチガチになっていると、大概ろくな事にならないからな。ま、気楽に行こうぜ。」

 そう言って、一慶はバン!とボクの背中を叩いた。

「痛っ!」
「お返し。これで貸し借り無しな?」

 意地悪く笑って、サラリと躱わす。
いつだって一慶は、こんな風だ。ボクが落ち込みそうになると、タイミング良く茶化して来る。

気配りなのか…それとも単に巫山戯ているだけなのか、直ぐには判別が付かない。