「真織さんクラスになると『神の使い』と云われる《天狐》さえも従え、自在に遣い熟(コナ)す様になる。天狐は、天部の神の眷属だ。例えば、弁財天(ベザイテン)の下に就いて、神力を発揮する。それだけに気位も高く、霊位の低い行者には、決して従わないんだ。」

 祐介の話を訊いて、ボクは、すっかり感心してしまった。つまり真織は、高い霊格を備えた行者だと言うことではないか!

「真織って、凄い人なんだね…。」

 ボクの呟きに、皆が沈黙で同意した。
だが、同時に否定もしている様だった。

──何故だろう?
皆、真織の実力を認める一方で、どこか否定的な態度を崩さない。心から信用していないという感じだ。

 何やら釈然としないボクを見て、遥が珍しく難しい顔で語り始めた。

「真織さんが使役するのは、全ての境界の《狐霊》なんだ。つまり、天狐も遣(ツカ)えば、野狐も稲綱狐も自由自在に操れる。《狐》を遣う行者はね、気性がコロコロ変わるので、昔から奇人扱いされているんだよ。」

 奇人?真織が!?
あんなに穏やかで優しくて、人当たりの良さそうな人が??

…信じられない。
とても、そんな風には見えなかった。

「人間は複雑怪奇な生き物だ。見た目や第一印象だけで、簡単に判断するんじゃない。何の為に《天解》があるんだよ?心眼で見れば、あの人の特異性が、ハッキリ判るだろうが。」

 一慶は、呆れたように言い放って、手元のスコッチを煽った。精進潔齋(ショウジンケッサイ)中なのに、酒なんか呑んでいる。

ボクは、透かさず揚げ足を取った。

「一慶、潔斎中なのに、お酒呑んで良いの?」

「残念でした。昨日で、無事に満願したんだよ。今日から晴れて、肉も魚も酒も煙草も解禁だ、バーカ。」

バ…
バカとは何だ、バカとは!