「真織さん。」
ふと視線を巡らせると…蒼摩は、抑揚の無い口調で真織に問い掛けた。
「紫さんは、お元気ですか?」
じっと見据える瞳。ガラスの様に無感動なその視線を…真織は無言で受け止めた。広い室内が、シンと静まり返る。
「お陰様で。紫は、すこぶる元気ですよ。心配して下さって有難う、蒼摩くん。」
「そうですか。なら良かった。」
感情の籠らない声でそう答えると…蒼摩は、何事も無かったかの様に、料理を口に運び始めた。
一体、彼は──
真織に、何を訊ねたかったのだろう?
紫が元気かどうか…本当に、それだけだろうか??
ややあって。
真織は、ふとボクを振り返って言った。
「首座さま。誠に勝手ながら、今夜はこれで失礼させて頂きます。」
「もう帰っちゃうの!?だって、まだ…。」
突然の暇乞いに、ボクは慌てふためいた。
真織は、まだ料理に手を付けていない。
膳の上では、出されたばかりの吸い物の椀が、ホカホカと湯気を立てている。
すると。ボクの視線を辿った真織が、心苦しそうに頭を垂れた。
「申し訳ありません。折角の御持て成しですが…私は、父を連れて帰らねばなりません。それに、明日の準備もして措きませんと。」
「だけど…。」
──と言い掛けたものの。
それ以上、彼を引き留める言葉が思い浮かばなかった。
そんなボクに、真織は優しく微笑み掛けてから、皆を振り返り立ち上がる。
「じゃあ、皆さん。お先に。」
「あぁ。紫に、くれぐれも宜しくな。」
烈火が含みのある一言を投げたが、真織は『解りました』と答えただけだった。
「真織!」
気が付けば。
ボクは、反射的に彼を引き留めていた。
「待って。せめて玄関まで送らせて。」
そう言って立ち上がると、真織は小さく手を上げて、それを止める。
「…いえ、こちらで結構です。首座さまは、どうぞゆっくりなさって下さい。」
「だけど…。」
「お気遣い有難うございます。ですが、私の事はどうかお気になさらずに。明日またお逢い出来るのを、楽しみにしております。」
品の良い微笑が返って来る──だが。
それは同時に、ボクを拒絶する微笑でもあった。
ふと視線を巡らせると…蒼摩は、抑揚の無い口調で真織に問い掛けた。
「紫さんは、お元気ですか?」
じっと見据える瞳。ガラスの様に無感動なその視線を…真織は無言で受け止めた。広い室内が、シンと静まり返る。
「お陰様で。紫は、すこぶる元気ですよ。心配して下さって有難う、蒼摩くん。」
「そうですか。なら良かった。」
感情の籠らない声でそう答えると…蒼摩は、何事も無かったかの様に、料理を口に運び始めた。
一体、彼は──
真織に、何を訊ねたかったのだろう?
紫が元気かどうか…本当に、それだけだろうか??
ややあって。
真織は、ふとボクを振り返って言った。
「首座さま。誠に勝手ながら、今夜はこれで失礼させて頂きます。」
「もう帰っちゃうの!?だって、まだ…。」
突然の暇乞いに、ボクは慌てふためいた。
真織は、まだ料理に手を付けていない。
膳の上では、出されたばかりの吸い物の椀が、ホカホカと湯気を立てている。
すると。ボクの視線を辿った真織が、心苦しそうに頭を垂れた。
「申し訳ありません。折角の御持て成しですが…私は、父を連れて帰らねばなりません。それに、明日の準備もして措きませんと。」
「だけど…。」
──と言い掛けたものの。
それ以上、彼を引き留める言葉が思い浮かばなかった。
そんなボクに、真織は優しく微笑み掛けてから、皆を振り返り立ち上がる。
「じゃあ、皆さん。お先に。」
「あぁ。紫に、くれぐれも宜しくな。」
烈火が含みのある一言を投げたが、真織は『解りました』と答えただけだった。
「真織!」
気が付けば。
ボクは、反射的に彼を引き留めていた。
「待って。せめて玄関まで送らせて。」
そう言って立ち上がると、真織は小さく手を上げて、それを止める。
「…いえ、こちらで結構です。首座さまは、どうぞゆっくりなさって下さい。」
「だけど…。」
「お気遣い有難うございます。ですが、私の事はどうかお気になさらずに。明日またお逢い出来るのを、楽しみにしております。」
品の良い微笑が返って来る──だが。
それは同時に、ボクを拒絶する微笑でもあった。