身構えるボクに、坂井医師は口調を柔らげて続けた。

「そう警戒しないで。キミの事情は良く解った。だが、これだけは言って措くよ。喩え無意識であったとしても、キミがした事は、呪術に該当するんだ。それも…かなり強力な。」

「ボク、何もしていない…。」

「そうかな、良く思い出してご覧?? キミは、お父さんに願っただろう?ずっと側にいて欲しいと。」

「そ、それは確かに願わないでもなかったけど…。じゃあ、それがいけなかったの?そもそもボクの体調と、一体どういう関係があるんだ?」

 ──すると。彼は細い指先で、縁なしの眼鏡をクッと持ち上げながら言った。

「そうだね、関係なら大いにある。キミの願いを受けて、お父さんの魂魄(コンパク)は、中途半端に蘇ってしまった。その骨の中で、お父さんは今も活(イ)きているんだよ。もう、呪具として完成してしまったんだ。今、キミが無防備にそれを持つ事は、とても危険だ。精神的にも強いストレスとなっている。…それが、体調不良の直接の原因でもあるんだよ。」

「え?」

「精神と肉体は直結する。心が病めば体も病む。…つまり、そういう事さ。」

 じゃあ…このところ続いている食欲不振やら、倦怠感の原因は──

「親父の…骨…が?」

 坂井医師は無言で頷いた──それから。
骨の入った袋を手に取り、繁々(シゲシゲ)と眺めて、こう言った。

「しかし、随分と強い念を込めたものだね。この骨は最早、生前と同じレベルの力を持っているよ。」

 …それは一体…どういう事?
親父が、生きて未だ此の世に留まっているという事なのだろうか?