「えぇ。私にとっては、継母に当たる人なのですが──その母が、どうしても『紫を当主にしたくない』とゴネておりましてね。なかなか、弟を手放してくれないのです。」

「…ふぅん…」

 『手放す』という言葉が、どうにも引っ掛かった。何やら、母親が何処かに紫を匿っている様に聞こえる。

「お母さんが紫くんを手放さないとは、具体的にどういう事なの?」

「母は…紫と共に『離れ』で別居生活を続けているんです。」

「別居?」

「はい。かれこれ六年も、そういう状態が続いております。」

 そう言うと、真織は重苦しく溜め息を吐いた。

「母も、そろそろ子離れして良い頃です。あの人は、昔から何かと、紫に依存する嫌いがありまして…この上は、首座さま直々に家督継承を命じて頂き、きっぱりケジメを着けさせようかと…。」

「つまり、首座の権限で、向坂家の代替わりを命じろという事?」

「はい。忌憚無く申し上げれば、そうなります。厚かましいお願いで、申し訳御座いません。」

 そう言うと、真織は深々と頭を垂れる。