その時だった。
真織が、不意に居住まいを正したのは──。

「実は…首座さまのお人柄を見込んで、御相談申し上げたい事があるのです。」

「相談!?ボクに?」

「ええ。明日、検査が終わったら…私の弟に会って頂きたいのです。」

「弟さん…ですか?」

「はい。紫(ユカリ)と申します。私とは一廻りも歳が離れておりまして…今年で、十九歳になります。首座さまと、同じ年齢ですね。」

「あぁ…うん。そうだね。」

 ボクは、ぎこちなく頷いた。
会うのは勿論構わないのだけれど──。
どうしたのだろう、急に?

 無意識に小首を傾げた途端、真織の表情が僅かに翳った。

「紫は、次代の《土の星》の当主です。」
「え?真織が跡を継ぐんじゃないの!?」

「はい。向坂家は、必ずしも直系の長子が跡継ぎになる訳ではありません。当代で最も力のある者が、当主になる倣(ナラ)わしなのです。」

「他家には、独自の継承理念があるんだよ。最も力の強い者が当主に立つのは、《風の星》も一緒だ。長い歳月の中で、当主の擁立に対する考え方も、多様化しているんだ。」

 そう口を挟んだのは、一慶だった。