「良かったね、薙。マオちゃんみたいな名医に診て貰えるなんて、ラッキーよ。」

 苺は、真織のティーカップに紅茶を注ぎながら言った。

「アタシも結膜炎で診て貰ったの。マオちゃんはね。特に《緑内障》の治療では、第一人者って言われてるのよ。わざわざ遠くから通って来る患者さんも、沢山いるんだから!」

「へぇ…凄いんだね。」

 滅多に他人を誉めない苺が、こんなにも熱っぽく太鼓判を捺すのだから、真織は、余程腕が良いのだろう。

 感心して振り返ると…当の本人は、言及を避ける様に、然り気無く別の話題を振って来た。

「──時に。先代首座が、貴女に施した封印は、実に複雑なものの様ですね?」

「うん、そうみたい。」

 確か、鍵爺も同じ事を言っていた。
実を言うと、その辺の霊的な事情が、ボクには良く解らない。

 親父が施した『封印』とは、一体どういう風に『複雑』なのだろう?

真織が云うところの《開封術》とやらで、目の内側から、何かを無理矢理引き剥がす様な事をされたけれど──あれ程の力でグイグイ引っ張られたのに、封印は外れなかった。

 …それで結局、《鍵島流》奥義とかいう伝家の宝刀を抜く羽目になってしまったのだ。