真織は、声を潜めて何やら唱え始めた。

「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ…オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ…」

この真言には聞き覚えがある。
以前、祐介が癒霊を施してくれた時に唱えたものと同じだ。

 だけど…祐介のそれとは、まるで違う音調に聞こえる。この深く奥底にまで染み通る様な、低音の声の所為だろうか?何だか、体がふわふわして─…眠くなる。

 ボクが、うつらうつらしている間にも、囁く様な真織の声は、耳に心地好く響いていた。その指は、静かにボクの目蓋を撫でている。

「…オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ…」

 何度と無く繰り返される真言。

真織の指先がポゥッと熱くなり、やがて…秋の夕焼けの様な切なさと温もりを秘めた、懐かしいオレンジ色が、目蓋の裏一杯に映り込んだ。

 癒霊の際。祐介の指先には、澄んだ青い光が灯っていたけれど──真織のそれは、温もりを感じる橙色だった。

指に灯る、不思議な輝き…。
これは《癒者》に依って、各々色が違うのだろうか?

何やら、彼等の性格そのものを表している様な気がする。

「さぁ仕上げです、首座さま。ゆっくりと目を開けて下さい。極力瞬きはしないで、ゆっくり…ゆっくりですよ?」

「うん…解った。」

「…南無・薬師瑠璃光如来(ヤクシルリコウニョライ)。願わくは、この真言(シンゴン)と密印(ミツイン)の力を以(モッ)て、仏の功徳を顕現せしめ給(タマ)え…。オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ。」

 吟(ウタ)うような声と共に、眼球の裏側がジワリと温かくなった。