「…まぁ、知らぬが仏の喩(タト)えもある。余計な先入観を持たない方が良いのかもね。キミの場合は、特に。」

 この人は、いちいち引っ掛かる物言いをする。

正直、あまり好きにはなれない。
ボクが押し黙ると──彼は、また少し笑って言った。

「結論から言おう。これは、まだ返せない。」
「…どういう意味でしょうか?」

「言葉の通りだよ。これを持つ事で、自分がどれだけのダメージを受けているのか…キミ、解っている?」

「ダメージ?ボクが!?」
「あぁ、キミが。」
「……」

 何故だろう?
この人の言葉が、まるで理解出来ない。
外国語を聞いている様な気分になる。

 怪訝に首を傾げていると、坂井祐介は真摯な面持ちで続けた。

「ねぇ。こんな話を知っているかな?『骨』にはね。太古の昔から、呪具としての用途があるんだ。占いや託宣、呪いに願掛け…。そういう儀式が、世界中にあるんだよ。」

「…呪い…??」

 脈絡の無い話題を振られて困惑していると、彼は、いきなりボクを覗き込んで訊ねた。

「もしかして…知っていてやった?」
「な、何を?」

「──だよね。やはり無意識でしていた事か。…末恐ろしいな、キミは。」

「さっきから、何の話!? ボクが一体何をしたと?!」

「呪術、だよ」

呪術?? ボクが──!?
冗談だろう、馬鹿馬鹿しい。

骨がどうの、呪いがどうのと真顔で熱弁されても、俄(ニワカ)には信じられない。荒唐無稽にも程がある。あまりにも身勝手な決め付けに、ボクは鼻白んで言った。

「へぇ…なかなか興味深い話だね。骨を持ち歩く事が、呪術になるの?」

「いや。それだけじゃ普通は、そうならないよ。だが、キミは少し違うみたいだ。」

 意味深長に言葉を濁して、彼はボクを見遣る。

一体、何が言いたいのだろう?
呪術とは何だ?

ボクは、そんなつもりで、親父の遺骨を持ち歩いてたわけじゃない。

「おや。顔色が悪いね。大丈夫?」

 不意に。眼鏡の向こうから注がれる視線が穏やかさを帯びた。

…こんな顔も出来るのか。
ならば最初から、そういう態度で接して欲しかった。

ボクは意地悪をされて、悦ぶタイプじゃない。