それから真織は、清浄綿を取り出してボクの両頬を優しく拭ってくれた。

「少し、血の跡が残っていますね。綺麗にしておきましょう。」

「あ…有難う。」

『どういたしまして』と真織は答えた。

不思議な人──不思議な声だ。

聞いているだけでホッと和む。眼鏡越しの優しげな眼差しに、不安な気持ちが救われてゆく…。

 祐介の言う通り、信頼出来る良いお医者さんなのだろう。患者さんにも慕われているに違いない。

 そんな事を、ぼんやり考えていると─…

「首座さま。」
「…あ、はい。」

「診察は、これで終わりです。最後に慰霊を施しますので、目を閉じて下さい。」

「はい。」

 そっと閉ざした目蓋に、温かい指が触れる。ただそれだけの事なのに、何だかとても気持ちが好い…。

「貴女の金目は、本当に綺麗でしたね。」

 癒霊しながら、真織が穏やかに囁いた。

「──何故、神子の瞳が金色に変わるのか。その謎は未だに解明されておりません。ですが、神子が金目を顕す時、そこに神秘の力が活現する事は、六星なら、誰しもが知る處ろです。天河抄にも、その奇跡が沢山記されている。素晴らしい力です。でもその代わり、致命的な弱点がある…。」