突然切り出されて…ボクは、みっともない程、狼狽(ウロタ)えてしまった。すると祐介が──

「真織さんは優秀な眼科医なんだよ。キミの眼を診てくれる。」

「眼を?」

「そうだよ。いい機会だからね。信頼出来る専門医に、ちゃんと診て貰った方がいい。癒霊術にも長けた人だから安心だ。」

「癒霊するの?」

「あぁ。金目に変化する事が、キミの肉眼にどんな影響を与えるか解らないからね。念の為だよ。」

「…うん。」

 理詰めで推して来る祐介に、ボクが敵う筈がない。

痛みや違和感は無かったが、主治医の強い勧めで、真織の診察を受ける事にした。

「大丈夫。お時間は取らせませんよ。」

 そう言う真織は、ジャケットを脱いで既に支度を始めている。

「金目の診察は、私も初めての経験ですが…癒者として、出来る限りの努力を致します。」

プラスチック手袋を填めながら、穏やかに微笑み掛ける真織は、人当たりが柔らかくて、親しみ易い人柄の様だ。

ボクは、ぎこちない笑みを返して彼に応えた。

「じゃあ…宜しくお願いします。」

 こうして、向坂真織の診察が始まった。
大きな手がボクの瞼を捲り上げる。
一目見るなり、真織は小さく唸って首肯した。

「あぁ…やはりね。」

 そう言って、左右の眼窩を隈無く精査する。

やはりとは…つまり、どうなのだろう?
何か悪い徴候でもあるのだろうか?

 すると。ボクの不安を払拭するかの様に、真織は優しく双眸を細めて言った。

「詳しく検査をしてみないと断定は出来ませんが…恐らく、眼球そのものに異常は無いと思いますよ。」

「本当に?」

「ええ。先程の流血は、霊的な作用に因る外傷だと思われます。目蓋の裏側に、僅かな炎症が見られました。そこから滲んだ血液が、涙に混じって流れ出たのでしょうね。」

「目蓋から?」

「そうです。貴女の目に掛けられていた封印が、鍵島さんの《開封術》を跳ね返した時、その衝撃で、目蓋の裏側が傷付いたのです。毛細血管の出血が涙に混入した事で、『血の涙』が流れた様に見えたのでしょう。霊的な作用で体が傷付くという現象は、別段珍しくはありません。」

「そうですか…有難うごさいました。」

 ボクは、拍子抜けした様に嘆息を洩らした。
あの時は本当に驚いたけれど、大した怪我じゃなくて良かった。

思わず、平らな胸を撫で下ろす。