背後で耳慣れない声がして、ボクは恐る恐る振り向いた。

──見れば。開け放たれた扉の向こうに、黒いスーツ姿の壮年男性が立っている。

「久し振り。」

 一慶が気さくに片手を挙げると、男性は眼鏡の奥の瞳を穏やかに細めて言った。

「やぁ、一慶くん。変わりはないかい?」
「お陰様で。」

「先年は愉しかったよ。久し振りに深酒をしてしまった。良い店を紹介してくれて有難う。また呑みに行こうね。」

「良いけど、社交辞令は無しだぜ?」
「はいはい。」

 親しげな会話が続く。
…誰だろう、この人は?
審議会の参加者の一人だと思うのだけれど??

「真織さん。お呼び立てして申し訳ない。どうぞ、中に入って。」

 祐介が、スイと立ち上がって男性を招き入れると、苺が透かさず甘え声を挙げた。

「マオちゃん、お久し振り~!! 相変わらずダンディね!苺の隣、空いてるわよ。早く早く~!!」

 素早く身を翻すと、苺は朝顔の蔓の様に、男性の腕に絡み付いた。

「相変わらず可愛らしいですね、苺さん。その後、経過は如何ですか?」

「うん、平気。マオちゃんに診て貰ったお陰で、すっかり良くなったよ!!」

「そうですか、それは良かった。」

 柔らかく目を細めると──男性は、獅噛み付く苺の腕をスルリと擦り抜けて、ボクに向き直った。

「ご挨拶が遅れ、失礼致しました。お初にお目に掛ります、首座さま。《土の星》の向坂真織サキサカマオリと申します。」

そう言って、丁寧に三つ指を着き、頭を下げる。ボクは慌てて居住まいを糺した。きちんと座り直し、「初めまして」と頭を下げる。

 男性──向坂真織は、そんなボクを見て、またふわりと微笑んだ。と、不意に…

「じゃあ、早速始めましょうか。」
「え!? 始めるって何を?」