それからボクは、寝室で素早く着替えを済ませた。

いつの間に移動したのか、クローゼットの中には、既にボクの服や下着が、パンパンに詰め込まれている。

お陰で不自由は無かったが…あまりの準備の良さに、またしても首を捻ってしまった。

 妙だ。畳替えの件と言い…。

まるで、ボクが『東の対屋』の住人になる事を、予測していた様な動きだ。手回しが良過ぎて、気味が悪い。

 何となく釈然としないまま皆の所へ戻ると、広いリビングスペースは、既にお茶会ムードで盛り上がっていた。

猫足の大きな座卓の上は、高級そうな紅茶のセットと、沢山の洋菓子で埋め尽されている。

 マフィンにキッシュに、アップルパイ。
ヌガーにクッキーに、ガトーショコラ。
ベークド・チーズケーキや、トライフルもある。どれも凄く手が込んでいて、見るからに美味しそうだ。

 甘い薫りに、胃袋がグゥと鳴いて空腹を訴える。

目の前に置かれた、ふわふわのシフォンケーキに手を伸ばした途端…いきなり、苺に手首を掴まれた。

「ちょっと待ちなさい!何、その格好!?」
「な、なんか変だった?」

 苺は、ぷぅっと頬を膨らませている。
ボクは慌てて、自分の服装を確認した。

ミントグリーンのTシャツにヒッコリーのサロペットパンツという、ごくありきたりの格好だが…別に、間違ってはいないと思う。

一体、何が気に入らないのだろう?

 すると苺は、両手の拳を顎の下に当てて、ブンブン肩を振りながらヒステリックに叫んだ。

「やだもぉ、本当に鈍感な子ねっ!どうしてアタシが用意した服を着てくれなかったのよぉ!?」

 …あ、そういうコト…。
確かに。ハンガーラックに掛けられたワンピースが、これ見よがしに置かれていたけれども──。

「ごめん、苺…でも、アレは無理だよ。」
「無理!?せっかく用意したのに、酷い!」

 ──怒られた。だが、幾ら苺の好意でも…
アレは、ちょっと…

「やっぱりボクには、無理だよ。あんなに沢山フリルやリボンが付いたワンピースなんて…ハードルが高過ぎる。」

 そこへ遥が割って入る。

「フリルにリボン?いいねぇ、似合いそうじゃない。俺、見てみたいな。薙のワンピース姿!!」

「──もう。勘弁してよ、遥。おだてても着ないからね、絶対。」

「おや。それは残念ですね。私も、是非拝見したかったのですが。」

「…え?」