──あぁ。それにしても、贅沢な部屋だ。

あれもこれも、初めて目にするものばかりで、目が眩む。

あちこち見回している内に、豪華な調度品の迫力に萎え掛けた気力が、子供染みた好奇心に取って変わった。

 部屋の奥には、美しい机張(キチョウ)に仕切られたスペースがある。その向こうには、大きな朱房の下がった御簾(ミス)が提げられていた。…まるで、平安時代の貴人の部屋だ。

「そこは寝室だよ。」
「寝室?」

 声に驚いて振り返ると、いつの間にか、背後に祐介が立っていた。

「開けてごらん?」
「いいの?」
「キミの部屋だからね。」
「…そっか。じゃあ、開けてみる。」

 促されて、遠慮がちに御簾を掲げてみる──すると。

「え!? 何これ、ベッド??」
「当主専用の寝台だよ。驚いた?」

「そっ、そりゃもう…!」

 驚いたなんてものじゃない。
ボクは、暫し惚けた様に立ち尽くした。

御簾の向こうに現れたのは、豪華な龍の蒔絵が入った漆塗りの寝台である。極彩色の鳳凰が刺繍された、ぶ厚い絹の組布団まで敷かれていた。

 何て豪華絢爛な寝室だろう?
目がチカチカする。まさかと思うが…今夜から、此処で寝ろと??

いやいや、勘弁してくれ。
庶民のボクには、華美過ぎる。
これじゃ安眠出来そうにない。

「ほ、他に寝室は無いの?」

「ある訳無いじゃない!こんなゴージャスな寝室、他に無いわよ。素敵でしょう?」

『素敵』だ。
確かに素敵だけれど──。

「広すぎるよ…。」

「じゃあ、今夜から俺が添い寝してあげようか?」

 囁きと共に、熱い吐息が耳に触れる。
不意討ちの攻撃に、ボクはビクン!と肩を跳ね上げた。

「…遥!?」

 振り向けば、背後に鏑木遥が立っている。

いつの間に着替えたのか──彼は、濃灰にピンストライプの、お洒落なスーツに身を包んでいた。

ルーズに緩めた紺のネクタイや、釦を外したシャツの胸元が眩しくて…抗議するつもりが、ついつい目を奪われてしまう。