──鍵爺が退出すると、それに続く様に年長者達が退座して、広間は急に和やかになった。

皆、心なしかソワソワしている。
これから、何かあるのだろうか?

 キョロキョロしているボクを余所に、一同が円座に直る。その中心に大きな座卓が置かれ、銘々に座蒲団が配られた。座が調うや否や、おっちゃんが立ち上がって景気好く手を打つ。

「はいはい、どちらさんも、審議会お疲れ様~!まあ、とんだ展開になっちまったわけだが…ともあれ、本日めでたく、一座に新しい首座が就いた!新体制への移行も決まり、煩い年寄りもお帰りになった。ここらで久方振りの『親睦会』といこうじゃねぇか!当家から、心ばかりの膳を用意してある。皆、楽しんでってくれ。」

 …え?呑むの?今から??
未だ、午後四時を回ったばかりなのだが…こんな陽の高い内から、酒宴を──?

「薙。」
「な…何、おっちゃん?」

「今夜は覚悟しとけよ。みんな、そうとう酒呑みだからな?明日の朝まで付き合って貰うぞ。」

 ひぃぃ!
やっぱり、そうなるのか──!?

 少し早い夕食の膳が配られる前に、ボクは一度、広間を退出する事にした。

着物が窮屈だった事もあるけれど、何より祐介が、ボクの体調をとても心配していて、『診察を兼ねて休憩を取らせる』と主張し、これっぽっちも譲らなかったからだ。

 ──そんな訳で。
ボクは、晴れて《四天》を継承した一慶達に付き添われ、退座する事になった。

 自室に戻ろうと西の対屋に足を向けた途端、一慶に「お前の部屋は、こっち」と腕を引っ張られる。

「え?…だって、そっちは東の」

「良いんだよ、東の対で。当主なんだから、今日から正式に東住まいだ。」

微笑みながら、祐介が言う。

 …そうだった。
当主になっちまったのだ、ボクは。
現実が身に染みて、肩がズシリと重くなる。
今になって、取り返しのつかない事をしてしまったと後悔した。

「ボク…当主になっちゃったんだよね?」

「やだ。自分で、キッパリそう宣言したじゃない。あれだけの啖呵(タンカ)切っておいて、何よ今更?」

「………。」

手厳しい苺の言葉に、ボクは静かに打ちのめされる。まあ確かに、仰せの通りなのだけれど。