そうして議場が一通り落ち着くと、鍵爺は、ポンと膝を叩いて言った。

「…儂の腹ン中は、全部明かした。当主も首座も無事に決まって、万々歳や。今日は、これでお開きにしよ。あぁ、しんど。この歳になると、長い事座っとるのも楽やないわ。」

 そう言うと大儀そうに立ち上り、肩と腰を擦りながら続ける。

「帰るわ。後は頼むで、孝之。」

 おっちゃんが『はい』と答えると、鍵爺はクルリと顔を巡らせてボクを見た。

「嬢。」
「はい。」

 『おいで』と手招きされて、ボクは鍵爺の前に歩み寄る。改めて向き合えば、老人はボクより頭一つ分も背が低かった。

下からジロジロ覗き込まれて困惑していると、鍵爺は小さく嘆息して口を開く。

「…ふむ。金目も、元に戻ったようやな。どや?少しは楽になったか??」

 目…?

いつの間にか、元に戻っていたのか。
全く気が付かなかった。

「大丈夫。何処も痛くないよ。」

「そら良かった。ほな、儂はコレで退散や。元気でな、嬢」

「…帰っちゃうの、鍵爺?」

「年寄りには年寄りの都合っちゅうもんがあんねん。…あぁ、それとな。式神使こて『変態技』かましたんは堪忍やで。」

「聞こえてたのっ?」

「あんなぁ…儂は、東天の鍵島やで?? 年寄り、舐めたらあかん。式が居らんくても、生憎、全部お見通しや。特に悪口の類いはな。」

 不敵な顔でニヤリと笑うと、鍵爺はボクの肩をポンと叩いてこう言った。

「またな。」

潔く踵を返すと、鍵爺は振り返る事無く広間を後にした。沙耶さんが、ついと立ち上がって、その後に続く。

 終わった…
何やら、とても疲れた。

《嫡子審議会》の筈が、思わぬ方向に展開してしまったけれど、先ずは一段落…という處ろだろうか?

まだまだ問題は山積みだが、今だけはホッと安堵の溜め息を洩らす。