──ボクが鍵爺の企てを知ったのは、初めて自分の力を開放した、あの瞬間だった。

鍵爺の頭の中には、六星一座の『新体制』とも云うべき、或る計画が隠されていた。

 …先ずは、一座の『若返り』。

六星一座は今、深刻な後継者不足に悩んでいる。当主始め、四天、護法を含む『若い世代の育成』が早急に求められていた。

特に《護法》は、年々若い門下が減っている。

 六星の各家は、『寺院』として宗教法人の登録がされている為、各々に壇家を持っているが…最近は、寺院に通う信者も少なく、当然、入門者も減少していた。

 『格闘技道場』として、一般の入門者を広く募集している家もあるが、《護法》となる者は中々、現れない。

幾ら武術に秀でていても、宗教的な裏付け──つまり『仏道修行者』でなくては、《四天武術》の奥義を修得する事が出来ないからだ。

そもそも《護法》は僧侶でなくては務まらないのだから、こればかりは仕方が無い。

 もう一つの問題は、凶悪犯罪の増加だ。
この数年。六星一座に対する、警察機関からの捜査協力の依頼が激増している。

 犯罪者達の大半は、霊的な作用を受けている場合が多く──特に、異常犯罪者の特異な行動パターンを知る為に、彼等の『霊的背景』を探る作業が重要視されているのだ。

 だが、如何せん。
一座は、慢性的な人材不足に喘いでいて、増える一方の仕事量に対応しきれていない。

こうした状況下での天魔討伐なのだ。
どう考えても両立は厳しい。

「そこで鍵爺が、裏一座の創設を考えた。表と裏…二つのチームで事に当たろうという考えなんだ。良いアイディアだと、ボクは思うのだけど──皆さんのご意見は?」

「…そうですね。基本理念は悪くない。但し、表と裏の仕事を線引きする必要があります。直ぐにもガイドラインを作成しなくては。」

 姫宮庸一郎は、早くも先を見越した提案を打ち出してくれた。

ボクの拙い説明が、どうにか伝わった様でホッとすると同時に、対応の早さに驚かされる。

 彼の発言もあってか、裏一座創設の一件は、満場一致で可決され、早速その具体案が議論され始めた。

一度こうと定まれば、物事が動き出すのはアッと云う間で…気が付けば、次回の会議の日取りまで決まっている。

 流石は、六星一座。

千年に渡って築かれた協力体制は、伊達じゃない。