「実はね、首座さま。こいつ等のヤンチャ振りには、親である僕でさえ手を焼いておりまして…。代替わりするのは一向に構わないが、当の嫡子がこんな有り様じゃあねぇ。神崎家が潰れてしまうんじゃないかと、そりゃもう心配で心配で。」

　そう云うと、また一頻り笑う。
それを見た瑠威はプイと素方を向き、瑠佳はペロリと舌を出した。

「ですが。貴女なら、この二人を上手く使って下さるでしょう。仰せに従い、僕は潔く、こいつ等に家督を譲りますよ。まぁ…少々の不安はありますがね。」

　右京の、突然の引退宣言だった。
驚いた向坂玲一は、眉を吊り上げて彼を覗き込む。

「本気か、右京!?」

「あぁ、本気も本気。これで肩の荷を降ろせるってもんだ。お前も考えてみちゃどうだい、玲一？隠居したら、久し振りにゴルフなんてのも良いな。」

「…いや、右京。そう簡単に楽をさせては、貰えない様だぞ？」

　傍らの庸一郎が、座り込んだまま動かない鍵爺に、チラと視線を投げた。

「鍵島さんは、我々に『別の役目』を下さるおつもりだ。そうですね首座？」

　庸一郎に問われて、ボクは小さく苦笑を返した。

「流石は、現役の御当主。何でもお見通しなんですね。」

「私も《天解》の行者ですから…。鍵島さんが、わざわざ御自分の魂魄を、我々に晒け出して見せたのは、そういう事だと思いまして。」

　《水の星》の当主は、誠実そうな眉をほんの僅か歪めて、慇懃(ｲﾝｷﾞﾝ)にそう答えた。