「私が惟うに…彼等は、現世で成し得なかった望みを叶えようとして、この世に顕れるのではないでしょうか?天魔とは、業を重ねて天狗道に堕ちた者が行き着く世界ですから。」

「そう、そこです。彼等も元は人間だった。強い遺恨があるからこそ、浄化出来ずに天魔になったのでしょう?では…その魂を慰め、癒してあげる事が出来れば、本来の姿に戻れるのではないでしょうか?」

「確かに、理屈はそうでしょうが…」

「姫宮さん。皆さんも聞いて下さい。ボクは天魔との闘いを、自分の代で終わらせてしまいたい。封じては破り、封じてはまた破られるの不毛な繰り返しから脱却しなくては、いつまでも闘いは終わらない。大切なのは、魂を救済する事だ。仏教は、異教の神々を取り込み迎え入れて発展した、懐の深い宗教です。天魔が神だというのなら、それが出来ない筈がない。」

「…貴女は、天魔というものを解っておられない。そんな単純な霊団ではありませんよ?」

 鷹取が、渋い顔で横槍を入れる。
経験の無さを指摘されたら、ボクには返す言葉が無い。すると──

「解ってないなぁ。」

 突如、茶化す様な笑いが起きた。
声の主は《風の星》の双子──男の子の方だ。
淡い灰色の髪と、白い肌が印象的な…

    「少しは空気読みなよ、おじさん。要するに、僕らの首座は『頭の固い年寄りに自分の脇持は勤まらない』って言いたいんだろう?同感だね。ジジイはサッサと引退しちゃってよ。」

「控えろ、瑠威(ルイ)!」

 風の当主が怒鳴ったが…瑠威と呼ばれた少年は、一向に懲りていなかった。

ニヤリと笑って、ボクに目線を移す。

「初めまして首座さま。僕は、神崎瑠威。僕らが《風の星》の当主を継ぐから、安心していいよ。まだ十三歳だけど、今までのどの当主より強いからね。」

「神崎…瑠威。」

「そう。こっちは妹の瑠佳(ルカ)。見ての通りの双子だよ。二人揃えば無敵なんだけど…ねぇ、首座さまからも頼んでくれない?パパは、どちらか一人しか当主になれないって言うんだ。でも、当主が二人いても構わないでしょう?だって僕らは『強い』んだから。」

 確かに彼には、底知れない力を感じる。
だけど、決定的な『何か』が足りない。
だからボクは、思ったままを口にした。

「そうだね。確かに君達は、とても強い。二人なら無敵…だが裏を返せば、一人じゃ使えないという事だ。」

「使えない?」

 ボクの言葉に、瑠威がつっかかって来る。すると妹の瑠佳が寄って来て、瑠威と手を繋いだ。

「じゃあ、これならどうですか?」

──そう言って。双子は、やおら呼吸を合わせた。忽ち、室内に小さな竜巻が発生する。

 突然の暴風に、騒然とする一同。