他に文句の付け処ろが無いので、名前の平凡さに悪態を吐いてみる。少し…いや、かなり情けない反撃だ。

 そんなボクの鬱積した思いなど知る由もない坂井医師は、相変わらず淡々とした様子で診察を続けていた。看護師に指示を飛ばすと、今度は一心不乱にカルテに向かう。

「先生。」

 痺れを切らしたボクは、仕方なく、自ら話を切り出してみた。

「あの…あれは?今日こそ、返して貰える約束でしたよね??」

「あぁ、そんな約束だったかな?」
「……ちょっと。」

「冗談だよ。そんなに怒らないで。預かり物なら、ちゃんと此処にある。」

そう言って、坂井医師は机の引き出しから、小さな緑色の御守り袋を取り出した。──親父の骨が入った小さな袋を。

 だが。ボクが手を伸ばすと、それより早く彼の手が伸びて、アッと云う間に取り返される。

「残念。これは、まだ返せないな。」
「そんな…約束が違う!!」

「キミの診察は、まだ終わっていない。それに…そういう態度は、どうなんだろうね。退院の許可を出すのは僕だよ?」

 ……厭な奴。
酷い事を平気で言う癖に、眼鏡の奥の瞳は、いつも少しだけ笑っている。まるで、ネズミを嬲なぶる猫の様に底意地が悪い。

「じゃあサッサと終わらせてくれませんか?ボク、大事な用事があるんです。」