「第六天魔が現世に出現した時から、六星一座には、神子が生まれる様になった…。つまり、それまでの一座に、神子は存在しなかったのです。」

 相変わらず、淡々とした口調で蒼摩は続けた。その視線は、先程からボクだけに向けられている。

感情の読み取れない、乾いた瞳…。
もしかして蒼摩は、無知なボクを責めているのだろうか?

「いいえ。僕は決して、貴女を責めているわけじゃありません。寧ろ、千載一遇のチャンスに巡り逢えた自分の運の良さに驚いている。」

 …心を読まれた。
蒼摩は《天解》の使い手なのだ。
無防備なボクの心を読む事など、造作も無い事なのだろう。

「すいません。貴女のお気に障ったのなら謝ります。ですが、これだけは言わせて下さい。」

 そう言うと。
蒼摩は、ほんの少し身を乗り出した。

「天魔の存在が明らかになるまでの間、対抗手段の無かった六星一座は、一時、壊滅に近い状態に陥りました。それを承けた時代(トキ)の高僧らが、内々に《大護摩供》を修し…以来、《金の星》の一族にだけ、神子を授かるという現象が顕れ始めたのです。それは、天魔を封じる《救い主》の出現を、皆が一心に請い願った結果だと僕は思う。貴女は、間違いなく僕ら皆の希望です。」

『…だから、心を決めて下さい』

 最後の一言は、ボクの頭の中に直接響いてきた。

蒼摩がボクに訴え掛けてくる。
過酷な運命を受け入れろ、と。

 こんな風に直接交信出来るのは、蒼摩だからなのだろうか? それとも、天解術を極めた者だから?

彼がボクの心に話し掛けられるのなら──ボクも、彼の心に話し掛ける事が出来るだろうか?

 …ちょっと試してみようか。

駆り立てられる様な気持ちで──ボクは、蒼摩の魂魄に語り掛けてみた。すると…

「…え?」

 交信を始めて間も無く、蒼摩が、驚いた様にボクを見詰め返した。

やはり、通じた──!
ボクにも同じ事が出来る!!

 意思が通い合う喜びに、ボクは夢中で話し掛けた。どうしても…どうしても、彼に頼みたい事がある。

すると。ボクの必死の呼び掛けに、蒼摩は小さく頷いてくれた。