「流石は姫宮家の次期当主。賢い子やで、蒼摩は。」

 姫宮家の聡明な跡取りに、鍵爺は心底感銘を受けた様だった。

「近頃の六星は、天河抄を、只の古い言い伝えや思て軽んじとる。《禍星》の、真の恐ろしさを知らん。この書物にはな。六星一座の、長い闘いの歴史が記されとんのや。それを学ばん様では、一座の未来も危うい。」

 鍵爺の言葉に、蒼摩は無表情で頷いて言う。

「はい。神子が現れたという噂を聞いて…僕は、この一節が真実である事を確信しました。そして、もうひとつ。冒頭のあの一文に、とても大切な意味が籠められていると言う事も。」

「大切な意味って?」

 ボクの問い掛けに、蒼摩はニコリともせずに答える。

「第六天魔が世に現れる時、神子もまた現れる…つまり。薙さんが、この世に生まれたという事は、天魔の封印が解ける時期にあるという事です。」

「その通りや!」

したり顔で相槌を打つ鍵爺。

 いや。いやいや…ちょっと待って。
つまりボクの誕生は、天魔の復活を意味している──と!?

「嘘でしょ?冗談はやめてよ…」

「いいえ。僕は、こんな悪趣味な冗談は言いません。そもそも悪ふざけが嫌いな性質ですから。」

蒼摩に淡々と切り返されて…ボクは、ぐうの音も出なかった。そこへまた鍵爺が畳み掛ける。

「よう聞き、嬢。嘘や冗談で済むんやったら、儂もここまで、えげつない真似はせんかった。もう時間が無い。第六天魔の封印が解ける…これは、紛れも無い事実や。」

「それで…ボクに、どうしろと?」

「信長は天下統一という己が野望を、天魔となった今でも棄てられんままや。万が一封印を破られたら、この国は恐ろしい厄災に飲まれてまう。神子は、それを救う為に降臨する救世主。奴等と闘い、封じるのが務めや。」

 闘う──ボクが、天魔と!?