俄かに大荒れの様相を呈する審議会。
すると。沙耶さんが静かに立ち上がって、鍵爺の元に歩み寄った。

「お父さん、私も皆と同じ気持ちよ。そろそろ本心を明かして貰わないと、話合いにならないわ。」

 実の娘に促されて…鍵爺は、観念したように立ち上がった。

「まあ、それもそうやな。しゃあない。アホでも解る様に、噛み砕いて話したるわ。沙耶、儂を席まで連れてってくれるか?」

「えぇ。」

 沙耶さんに手を取られて、鍵爺が限りなく上座に近い自分の席に着く。大儀そうに身を屈め、どっこいしょと座椅子に背を預けると…老人は静かに語り始めた。

「問題は、禍星(マガツボシ)の出現と、神子の出現が同時に起こる處(トコ)ろにあんのや。」

「──と、仰有いますと?」

 鷹取氏が身を乗り出すと、一同も吊られる様に体を前傾させる。皆、興味津々の体で、鍵爺の言葉を待った。

「それを明かす前に…《禍星》について、簡単に説明せなあかん。多くの者が、『何のこっちゃわからへん』いう顔しとる。」

 図星を指されたのか、室内に一瞬、気まずい沈黙が流れた。それを見た鍵爺が、心底呆れた様に嘆息を洩らす。

「なんや、ホンマに解らんのかい?! 全く、近頃の若いもんは…。日頃の勉強が足らん。そのくせ、儂が何か言おうもんなら、ここぞとばかりに喰って掛かる。弁舌ばかり巧なってからに…。六星一座は、芸人の一座とちゃうで。」

 あからさまに揶揄されて、思わず視線を泳がせる者が広間にチラホラ見受けられた。

 《禍星》とは何なのだろう?
聞き慣れない単語に、ボクも興味をそそられる。

 語感から察するに、あまり縁起の良い事ではなさそうだ。だが、自分の出生と関わりがある事だと云うなら、ちゃんと知って措(オ)きたい。

謎が解き明かされる不安と興奮に、ボクは上座で身を強張らせた。

 鍵爺は言う。

「──蒼摩の言う様に。この国には、過去何度となく《禍星》が現れ、災いを持たらした。病、戦、暴力、殺人…。人の心に闇を引き寄せ、様々な事件や事故を起こし…時には、政治や経済にまで、暗い翳を落とす。混迷の元凶である《禍星》とは、ズバリ《天魔》を示す隠語や。」

「天魔?!」
「天魔だと?」

《天魔》という言葉に、再び大きなどよめきが起きる。皆、驚愕を隠せない様子で、互いに顔を見合わせていた。