「御老──」

 鷹取は、不信も露わに鍵爺に迫った。

「失礼ながら…以前より、この一件に対する貴方の態度は、些か常軌を逸している。何故その様に結論を急ぐのですか?きちんとした説明をして頂かなくては、我々も納得致しかねます!」

 彼の云う通りだ。
何故、本当の事を言わないのだろう?
このままでは、誤解が拡がる一方だ…大切な事なのに。

 正論で責め立てられた鍵爺は、苦虫を噛み潰した様な顔で言う。

「…急がなあかん理由があんのや、鷹取。呑気に審議などしとる間が惜しい。事は一刻を争う。」

「ならば尚更」

 鷹取が大きく身を乗り出した…その時だった。

「…世に禍星(マガツボシ)現るる時…」

 何処からか、詠うような美声が聞こえて来た。

一瞬の内に一同の注視を集めたのは、端正な顔立ちの少年だった。

「世に禍星現るる時、金剛の星、宇(ソラ)より降りて人の身を纏(マト)い…乱世を惑わす悪しき天魔を討つ。…《六星天河抄《ろくせいてんがしょう》》の一節です。もしかしたら、この一文に関係しているのでは?」

「横槍を入れるな、蒼摩。我々は今大切な話をしている。」

 《水の星》の当主・姫宮庸一郎が、傍らに座る息子を静かに窘る。蒼摩と呼ばれた少年は、無表情に父親を振り仰いだ。

「横槍を入れるつもりはありません。ただ…鍵島さんが『急ぐ理由』が、この一節に秘められていると感じただけです。」